吉村萬壱の作品は大好きだけど、今回はイマイチ乗り切れなかった。
なんだろうなぁ…毎度お馴染みの吉村萬壱って雰囲気を出しているのだけれど、圧倒的な気持ち悪さが無い気がした。『臣女』とか『ボラード病』で感じた「どうしようもない嫌な感じ」ではなくて「計算された嫌な感じ」なのだ。
いったい何が駄目だったのか?
出来事
- 表題作を含む13篇からなる連作短編集。
- 物語は一応繋がっているけれど1つずつ読んでも良さげな感じ。
- 仮想と現実を巡る物語。連作形式で前の物語の嘘(虚構)が次の物語で暴かれていく。
- 哲学小説(?)との触れ込み。
感想
『前世は兎』でも感じたのだけど、吉村萬壱は兎に思い入れがあるらしい。吉村昭が「骨」に入れ込んだように、吉村萬壱は兎に入れ込んでいるのだろうか?
連作短編の1作目『偽物』には兎のエピソードが出てくる。
- うさぎの毛が絡まっている場面
- うさぎのトイレの話
特に書き込まれている訳ではないのに妙に印象的に心に残った。
「妙に印象的」なんて書いたけれど、思うに計算されているのだと思う。そうでなければ作者、吉村萬壱がが本能的に愛をぶちまけているのか。
『前世は兎』ではやたらに兎の描写が鮮明なことに違和感を覚えたのだけど、ちょっと納得してしまった。
謎過ぎる脳内展開とか、唐突に性的なことを突っ込んできたりするのは「毎度お馴染み吉村萬壱」って感じだったけれど『出来事』は吉村萬壱特有の強引さを感じることが出来なかった。
「気持ち悪いのに読まずにはいられない魔法」がこの作品にはかけてられていなかった。
吉村萬壱、もしかしてちょっとシンドイの?
長く1人の作家さんを追っていると「波」のようなものを感じる。どんなに凄い作家さんでも、良い時と悪いと時があるし、脂の乗った時期とそうでない自家が確実に存在すす。
もしかしたら『出来事』は吉村萬壱にとって「そうでない時期」に書かれた作品なのかも知れない。または大人の事情で「どうしても書かざるを得なかった」って状況なのか。
物語にウェイトを置く作品の場合、多少ツッコミどころがあっても勢いだけで読ませることが出来るのだけど、人間の本能的な部分に訴える作品の場合、ほんの少しでも落とし所を間違えると1ミリも面白くなくなってしまうのが辛いところだ。
今回はたまたまハズレだったのだと言うことで、吉村萬壱の次の作品に期待したい。