ちょっと風変わりな話だったけれどかなり面白かった。
人語を解する北極熊の「三代記」。サーカスの花形で自伝を書いた祖母、女曲芸師と伝説の『死の接吻』を演じた母、そして一時期世界的に話題となったクヌートの物語。
「熊視点」で語られる話は斬新なスタイルだが、しかし引き込まれる物があった。
雪の練習生
腰を痛め、サーカスの花形から事務職に転身し、やがて自伝を書き始めた「わたし」。
どうしても誰かに見せたくなり、文芸誌編集長のオットセイに読ませるが……。
サーカスで女曲芸師ウルズラと伝説の芸を成し遂げた娘の「トスカ」、その息子で動物園の人気者となった「クヌート」へと受け継がれる、生の哀しみときらめき。ホッキョクグマ三代の物語をユーモラスに描く、野間文芸賞受賞作。
アマゾンより引用
感想
驚いたのは「多和田葉子はどうして熊の気持ちになれるのか?」ってこと。
私は熊の生態には詳しくないので、この作品にリアリティがあるのかどうかは分からない。しかし「本当に熊が語っている」としか思えないほど文章が達者なのだ。
引き込まれる魔法……とでも言うのだろうか。
読み始めた時は多少の違和感を覚えたが、祖母の話が終わる頃にはすっかり作者のペースに引き込まれていた。
読者を選ぶ作品だとは思うけれど、レベルの高い作品だと思う。一時期のいしいしんじと少し雰囲気が似ているようにも思う。
それにしても、この作品に限ったことではなのだけれど「三代記」って、初代は面白いのだけど、三代目になると勢いが落ちるのは何故だろう?
面白くない訳ではないのだけれど、世代をすすめていくにつれ小さくまとまっていく感がある。それはこの作品にも当てはまるように思う。
繊細さとか心情的な部分では三代目のクヌートの話は面白いのだけれど、インパクト的には初代が断然面白い。
多和田葉子の作品を読むのはこれで2冊目。『尼僧とキューピッドの弓』に比べると読みやすかったし、物語性も高かったように思う。
今回のような路線の作品が多いのなら、しばらく追いかけてみたい。