伊豆の下田で鰻屋を営む頑固オヤヂと旦那衆が繰り広げる人情譚。
「片意地」とか「へんくつ」とか「一本気」という言葉を見ただでなにやら楽しい気分になってしまう私としては、見逃せない1冊だった。
個人的な好みに過ぎないのは承知の上だが、私は頑固な人が好きだ。
もちろん、凝り固まってしまっては興ざめだが自分の中にゆずれない物を持っている人ってのは、魅力的に思える。
片意地へんくつ一本気 下田うなぎ屋風流噺
「土用の丑の日には店を閉める!」固い強情こと川井剛造が吼える。なにがなんでも天然物を、それも客の顔を見てからさばくと決めた一刻者。
筋目を通さないと好きな女も口説けない。そのくせひょいと儲け話に乗ったり、選挙に出ると息巻いたり…。
名物店主と伊豆・下田の、一癖も二癖もある旦那衆が繰り広げる極上・絶品の人情譚。
アマゾンより引用
感想
この作品に登場するオヤジは、題名通りの頑固オヤジだった。
しかも古風な職人気質ときたもんだ。これは、もう、それだけで愛さずにはいられない。しかも、オヤジの仲間という人達が、なかなかイイ味のオヤヂなのだ。
格好良い人も、泣かせるような人も、キレ者も登場しないのだが、なんとな~く、ひとところに集まって、へらず口を叩き合っているオヤジ達は理屈抜きで楽しそうで、女性の目から見ると妙に羨ましかった。
もしも私が男だったら、あぁいう関係を作りたいなぁ~と思うような。
とりたてて奇抜な素材ではないのだけれど、地味~に面白かった。
等身大の庶民を描いているようでいてじつは、そうとう理想が入っているところが、また良かった。
小説の本筋とは関係ないのだが主人公の作る江戸前の「うなぎ」を食べてみたいと思った。
作品の中で、非常に美味しそうに描かれているのだ。
私は生まれも育ちも関西で、江戸前の「うなぎ」は1度も食べたことがないので東京へ行ったら、ぜひとも江戸前の「うなぎ」を食べてみたいと思う。
うなぎを愛する人と、頑固オヤジを愛する人に読んでもらいたいと思う。
後味サッパリ、面白く、読みやすく、しかし芳醇な極上の鰻のような1冊である。