エロティックな香りの漂う不思議な話を集めた短編集。
小川洋子では物足りず、河野多惠子ではグロ過ぎる…その良い感じのラインを走っていて、個人的には大満足。
裁縫師
広大なお屋敷の鬱蒼とした庭の離れに、アトリエを構えるひとりの裁縫師。彼は、富豪のお抱えとも、息子だとも、愛人だとも噂されていた。
ある日、9歳の「わたし」は、自分の服をあつらえてもらうために、母に連れられて裁縫師のもとを訪れる。
採寸され、数日後にひとりアトリエを訪れた「わたし」だったが…。禁断の恋に身を任せる幼女を描いた「裁縫師」ほか、詩情とエロティシズムあふれる新感覚短篇5篇を収めた珠玉の小説集。
アマゾンより引用
感想
女性ならではの感性でエロスの世界に切り込んでいるところは好感度大。エロスと言っても、かなり上品めに描かれているので読む人によっては物足りないかも知れない。
表題作の『裁縫師』は、9歳の少女が年齢不詳の男に身体を開くというとんでもない筋書き。
男性視点で書かれていたなら「9歳の少女がオヤジに欲情するなんて、ある訳ないだろ」と突っ込んでいたと思うのだけど、少女の視点で描かれていて、しかも女性の感性で描かれていたので、物語に入り込んで読むことが出来た。
大きな屋敷の一角にアトリエを構える裁縫師…という、やや少女漫画ちっくな設定や「自分だけの服を縫ってもらう」と言うあたりがロマンティックでうっとりしてしまった。
何度も手にとって味わいたいと思うほどに思い入れてしまった。
表題作以外の作品もどの作品も「女」を感じさせる要素を含んでいて、面白いものが多かった。
私が特に気に入ったのは『女神』と『野ばら』。
『野ぱら』は11歳の少女が主人公。放浪癖を持つ父のおかげで、歪みを持つ家庭に育った少女が淡々と日々を暮らしていく様子が描かれている。
リアリティは感じられず、とらえどころのない不思議な空気感に支配されていて、少女の孤独がひしひしと伝わってくる作品だった。
話の面白さもさることながら、文章が上品で読みやすいのが気に入った。
小池昌代の作品を読むのはこれで3冊目。
久しぶりに「真剣に追いかけたい女性作家さん」が出現して嬉しく思う。次の作品を読むのが今から楽しみでならない。