『コンプルックス』は容姿へのコンプレックスがテーマの作品。容姿へのコンプレックスって人間…特に女性にとって永遠のテーマだと思う。実際、私自身容姿へのコンプレックスがあり背が低い(身長143センチ)ってことは心のどこかに引っ掛かっている。
表紙絵が嫌いで敬遠していたけど「面白いらしい」との評判を聞いて手に取ってみたところ、予想以上に面白かった。
コンプルックス
- 美容室『ナルシスの鏡』には容姿に絶望した人が覗くと、誰もが振りむく姿になれるという不思議なチカラを宿した鏡があった。
- しかし美しくなった姿は仮想現実。66日を過ぎてもなお仮想現実の中で生きることを決めると、元の世界でのその人物の存在は消える。
- 自分の容姿に絶望した女性達のたどる末路とは?
感想
設定的には完全にラノベだけど良く出来た作品で感心してしまった。作者のクノチチホは全く未知の人で読了後にどんな人なのか調べてみたところ、バイセクシュアルの女装家で既婚者とのこと。なんだかよく分からない経歴の人なのだけど、それと作品の良し悪しは全く別の話。
『コンプルックス』のテーマは容姿のコンプレックスがテーマの作品。この類の作品って、今までだったら安直に「人間は見た目より中身だよね」みたいなところに収まりがちだけど、今までにない解釈が提示されていた。恥ずかしながら読んでいて痛いところを指摘され過ぎて私には厳しい部分もあった。
昨今はルッキズムなんて言葉も登場するように「容姿いじりはNG」とされているけれど、その一方でインスタグラム等では「可愛いは正義」の価値観が普通とされている。そして容姿に対するコンプレックスって厄介なテーマなので深く掘り下げるのことは難しい。
作者のクノチチホは様々な方向から容姿へのコンプレックスを描いていて、1つの考え方に固執していないところが素晴らしいと思った。こんな考え方…私が子どもの頃(昭和)にはありえなかった。
自分よりも若い世代の作家さんの考え方や価値観って勉強になるなぁ。
小説と言うよりも小説の体をなした容姿コンプレックス解説本…みたいなノリの作品なので純粋に小説を楽しみたい人には物足りないかも知れないけれど、私は『コンプルックス』を10代の女の子達に読んで欲しいと思ったし、私自身若い頃にこの小説に出会いたかった。
それにしても若い人のエネルギーって素晴らしいな! ここ数年は意識的に若い作家さんの作品を手に取るように心掛けているけれど良き出会いが多くて嬉しい。クノチチホが小説を書くことがあるのなら、是非次も読んでみたいと思う。