東京旅行に行った時、読書の師匠から「きっと好きだと思うから読んでみたら?」と勧められて読んでみた。
今野保は北海道早来町生まれで製炭業や炭鉱勤務を経て、1984年の事故で右手を負傷した入院中に左手で文字を書く練習をして小説家になったという、それ自体がドラマティックな人生を歩んだ人だ。
全くノーチェックの作家さんなのだけど、作品は長らく絶版になっていて2024年に復刊し、直木賞作家である河﨑秋子が解説を書いている。今回の感想は軽く ネタバレ込みとなります。ネタバレNGの方はご遠慮ください。
羆吼ゆる山
- 作者の自伝的作品で戦前から戦後にかけて北海道の自然の中で羆の気配を身近に感じながら生活した日々が綴られる。
- 父から手ほどきを受けて少年猟師として山に入ったこと、羆撃ち名人の命を奪った手負い熊の話、金毛の羆と心を通わせた伝説の猟師の逸話等、羆と共に生きる北海道の人々の姿を鮮やかに描く。
感想
面白かった! たぶんだけど漫画(アニメ)の『ゴールデンカムイ』が好きな人には刺さると思う。北海道を舞台にした羆小説だけど『ゴールデンカムイ』よりも新しく、現代よりも古い時代の物語。昭和……と言っても戦前からスタートしているので、今とは価値観が随分と違っていた。
何しろ子どもが猟銃を持って獣を撃ったりするのだもの。今の価値観からすると「子どもに銃を持たせるなんてとんでもない」って話だけど時代が違う。そして作品を読めば家族が生きていくために必要なのだと理解できると思う。
羆の気配を感じながら生活するだなんて「住宅街にクマが出ました」とニュースで報じられてビックリする現代人には想像もつかない。羆騒動の最中、主人公の少年(作者)が女の子を家に送り届けた後、女の子が自分に対して親密さを感じているように感じるようになった……と言うエピソードなど「そりゃ、惚れてまうやろ」って話。日々、命のやり取りをする生活だったのだ。
羆と戦う猟師兄弟のエピソードや、伝説の猟師の逸話など羆エピソードがミッシリ詰まっていて読み応え抜群だった。
羆を扱った小説は意外と沢山あって、その中でも私は吉村昭の『羆嵐』がナンバーワンだと信じて止まないのだけど『羆吼ゆる山』も名作だと思う。『羆嵐』は羆の恐ろしさが全面に出ていて、読みようによってはパニック小説、恐怖小説めいたところがあるのに対して『羆吼ゆる山』は「人の生活と共にある羆」って感じがした。
『羆吼ゆる山』は全体の4/5が羆や北海道の自然について書かれているのだけど、第二次世界大戦がはじまり、主人公達家族は炭鉱と共に生きることになる。作品の締めくくりが秀逸だった。詳しい経緯は端折るけれど
母は、
「お前たち二人が熊にやられるなんて、考えてもいなかったよ」
と、まるで動じる風もなかった。
『羆吼ゆる山』
北海道で生きる人々の生活の変遷を象徴するようなラストだと思う。今野保の小説はヤマケイ文庫から、三部作として出版されているようなので追々と読んでいきたい。


