小池昌代の感性、すごくいい……と言うか、私の感性にピッタリと沿って気持ちがいいような恐いような。
読んでいて空恐ろしいものを感じた短編集。
表題作と他2編。どの作品も面白かった。ちなみに表題作『タタド』とは、伊豆半島にある多々戸という浜の名前とのこと。
タタド
波の音を聞くと、遠い土地に流れ着いた流木のような気分になる――。
海辺のセカンドハウスに集まった地方テレビのプロデューサー夫婦と友人二人。
五十代の男女四人は浜辺に落ちた海藻を拾い、庭に実る猿の頭ほどの夏みかんを頬ばり、ワインを飲んで、心地よい時間を過ごす。
翌朝、四人の関係は思わぬ「決壊」を迎える(川端康成賞受賞・表題作)。日常にたゆたうエロスを描く三編。
アマゾンより引用
感想
どの作品も良かったけれど、私が最も気に入ったのは『波を待って』という作品。
主人公の女が浜辺でサーフィンをしている夫を待っている話。主人公には男の子がいて、その子を見ながら自らの思考に溺れるのだけど、回想の入れ方や、浜辺の情景の描き方が、いちいち良いのだ。
執拗に入り込んでくる砂粒や、潮風のベタついた感じが読んでいる私にも伝わってくるようだった。
そして、何よりも良かったのは主人公が「女」であったこと。母でも、妻でもなく、1人の人間として思考していたところだ。
冷静で、少し残酷。だけど、おおむね良識的な普通人。逆を言うと、良識的な普通人の中に、そういう思考が根付いているというところが興味深い。
表題作の『タタド』は海辺の別荘に集った4人の男女が紡ぐ物語。
淡々としているのに卑猥な感じ。人は年齢を重ねることによって、性の営みから遠ざかっていく……と言う風に思われがちだけれど、そんな訳でもないらしい。
この作品に登場する男女は、美男美女ではないくせに、やたらセクシーに描かれていた。
最後の1編『45文字』は絵の好きな人に読んで欲しいと思った。
主人公は、ひょんなきっかけから美術全集のコメントを45文字で書く仕事を引き受けるのだが、そのコメントが実に素晴らしいのだ。作品自体も良かったけれど、私はこのコメントだけでも十二分に満足することが出来た。
収録作品はどれも文句無しにに面白かった。
出来れば、この小池昌代の書く長編作品を読んでみたい。
最近「おっ。いいもか」と思える作品・作家と出会っても、短編ばかりなのだ。
短編も悪くはないけれど、腰を据えて挑まなければならないような長編小説が読みたいのだ。
引き続き小池昌代に注目したいと思う。
タタド 小池昌代 新潮社